ジョルジュ・シムノン『メグレと首無し死体』河出文庫

メグレと首無し死体 (河出文庫)

メグレと首無し死体 (河出文庫)

1955年発表。フランスの小説を沢山読んだわけではないので何とも言えないが、フランス人の文章は「オシャレ」だ。昼間から何かと酒を飲む刑事。白ワイン、生ビール、ブランデー。「何処のビストロの白ワインが美味しい」との話題が日常的に出て来るパリの昼下がり。容疑者との会話、上司とのやり取り、部下への指示。邦訳によって違いはあるだろうが、何処となく絵になると言うか。
本作は推理小説としては「地味」だ。展開のダイナミックさやトリックの奇抜さも特に無く、メグレのヒーロー性が光る作品でもない。運河から上がったバラバラ死体。首だけが見付からない。運河の周りの店をウロウロと聴取して回るメグレと部下。ただ、解説にもある通り、メグレの人間としての姿がありありと描かれている。そして、そんなメグレ警視がカッコイイのだ。気障な訳ではない。特にオシャレな訳でもない。コロンボみたいに「もう一つだけお伺いします」的決め台詞も無い。でも、何だかカッコイイ。昼間から当たり前にワインを飲んで、予審判事とやり合って、奥さんに夕食に帰れないことを電話して。愚痴らず、へこたれず、黙々と捜査を続けるメグレのカッコよさを感じる1冊でした。