森博嗣『すべてがFになる -The Perfect Insider-』講談社文庫

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

1996年発表の文庫化。犀川創平と西ノ園萌絵、「S&Mシリーズ」の第1作で第1回メフィスト賞受賞作。ここ数年で発表された日本人作家の作品で、私がここまで面白いと思ったのは京極夏彦の『魍魎の匣』以来(ベクトルは違うが)だ。一言で言えば、「完成している」のだ。完璧。著者はN大学(国立大学)の先生らしい。作家は本業じゃないんだ。そしてN大学とか言ってる時点でバレバレなのに何故隠すんだろうか。理系(特に情報科学)の知識がないと専門用語などは分からないだろうが、とにかく面白かったし、悲しい話だった。しかも何故か筆者は多作だ。本業の方は大丈夫でしょうか、先生。
完璧なセキュリティシステムで守られた研究所。スタートレックみたい。その最下層にある密室で行われた殺人。続く殺人。完璧なプログラムに発生した異常。異常がないのに異常。14歳の時両親を殺害し、以来15年間閉じ込められ続けている天才プログラマ真賀田四季。かつてこれほど綿密に描き出された天才を私は知らない。考え方、発想の根本が違う。所謂人間と同じ思考回路を使っていないのだと思う。そう、天才は天才であって、人間じゃない。違う生き物だ。そんな彼女に何故かシンパシィを感じる。最後に、『全てがFになる』。本当にいいタイトルだ。